縞が奏でる音楽
北関東の織都として知られる桐生市を北に三キロもたどると両側に山が迫り、桐生川がその清流をいっそう際立たせてきます。ここら周辺は梅田の里ともいわれ、桐生の工芸をめざす人たちの拠点ともなっています。ハーブ染め、焼きもの、藍染め、木工、和紙などさまざまな人たちが活躍しています。
三年前(一九九○年)、この梅田に現代の寺子屋≠ニ銘打った「桐生織塾」が誕生しました。まず、その新しい発想による活動の一端を紹介します。一、二○○年の伝統を誇るこの桐生市でも、センセーショナルな話題を巻き起こしました。
それは「縞展PartU」(一九九二年4月開催)と銘打った展示会でしたが、このなかで塾長武藤和夫さんは縞織物のデザインを音楽や写真、絵に求め、まったく新しい縞織物を創作し、その作品数十点が展示公開されたのです。
ご承知のとおり縞織物は最も単純なデザイン。しかしその縞のパターンは無限の組合せが考えられ、世界の民族衣裳にも、その地方・種族の独特でカラフルな縞文様がたくさん見られます。
織物を文化すなわち人間の楽しみととらえる武藤さんには、音楽も絵も写真も織物とまったく同じ範ちゅうに入るようです。そこで、音楽や写真と縞とのドッキングを試みたのです。
さて、どんな試みだったのでしょうか。まず音楽ではこうです。音階を色の濃淡、または色相の種類に置き換え、音譜の長さを縞の幅に置き換えてみたのです。上の写真は団伊久磨作曲の「花の街」のいわば縞バージョン版です。それぞれの人がドレミファソラシドの色を江間章子の作詩からイメージし、音譜の長さから縞(段)を作成したものです。
したがって人により作品は異なるオリジナルなものになるわけです。このほかにも、最近話題となった「1/fゆらぎ理論(自然界のさまざまな変化の姿をゆらぎ≠ニしてとらえた理論)」による乱数パターンの音楽の縞織物化もはかられました。これらは見学にきた人たちを大いに驚かせました。
また、写真作品を縞織物化したもの二○点も同時に公開され、その新しいユニークな表現法に多くの喝采が送られました。この展示会はマスコミ等でも大きく取り上げられ、「桐生織塾」の名は一般の人にも広く知られることとなりました。
この塾長、武藤和夫さんこそ群馬県繊維工業試験場の大活躍OBなのです。