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序説

まちなみ探訪

古い家並の道を歩いていると、歴史を物語る建物の表情や、その建物の意匠・装飾に魅せられる。歴史ある``まちなみ''を歩くと、更にその地が最も輝いていた時代から現代に至る時空の胎内に一気に引き込まれ、不思議な気分にさせられる。又、周囲の山並に溶け込んだ集落の風景につい見惚れていると、心地良い風が頬を撫でる。時にはその史跡や歴史的建造物を保存・再生・利用して地域活性化への夢を具現して活気を創り出している町を歩くと、なんとなく自分まで元気にさせられる。そんな刺激が好きになり、``まちなみ''歩きが続いている。

歴史のある``まちなみ''は、コミュニティーの一員でもある棟梁や建築職人達が代々その地の習慣を既定にして建主の希望や趣味、こだわりに応えながら仕掛や意匠を決め、御上(おかみ)の決まり事に添って家を建てて来た。それは棟梁はじめ各職人達が持てる技量を存分に発揮出来る『場』となり、他方弟子達を教え育てる『場』でもあった。そして家並が出来、``まちなみ''がつくられていった。


甍(いらか)の続く町は瓦職人の腕の見せ場であり、土蔵造りになると、破風(はふ)飾り、虫籠窓(むしこまど)、海鼠壁(なまこかべ)、卯建(うだつ)、こて絵など、多岐な仕事は、棟梁の感性と左官職人の技量で決まる。雨仕舞いを兼ねた精緻な板金の仕事、連子窓(れんじまど)、蔀戸(しみど)、出格子を支える持おくりの彫刻等々…。全精力を注ぎ込んだ職人達の誇り高き仕事振りは永年の時を越えて益々輝いて見えてくる。

近年急速な生活様式の変化とともに近代都市を目指した基盤整備事業や商業活動などのために、各地の歴史のある``まちなみ''が壊されてきている。そして現代流行している建築資材(ALC板、化粧パネル等)による同質なデザインの``まちなみ''が造られ全国に広がっている。しかしそれは家づくりにおける良き習慣、伝統の建築技術、形像を衰退させ、歴史ある景観を変えてしまうばかりか、更にコミュニティーの崩壊や地域文化の消滅にまで影響を及ぼしている。

一方で京都、鎌倉、高山、妻籠など昭和40年代に独自の景観条例や町並保存条例を制定して、町並保存とまちづくりを一体として行い、先進観光都市(地)になっている所もある。昭和48年以降文化庁による歴史的町並調査が行われ、伝統的建造物群保存地区として、歴史的``まちなみ''が一様にクローズアップされた。更に重要伝統的建造物保存地区の選定により国の資金援助による歴史的建造物の修理や修景事情が進み、江戸、明治、大正、昭和初期の``まちなみ''が復元、整備されてくると、地元住民のまちづくりへの意識も高まり、観光客も増加して``まちなみ''の保存再生への意義が広く認識されるようになってきた。

近年、川越、足助、長浜などは歴史的町並保存と『まちづくり』『まちおこし』を連携させ、民と官が協力しながら町の活性化のために活動し、注目されている。そして、そんな町には必ず民間人や行政マンの中に『まちづくり』の熱血漢がおり、その方々の働きが、『古い町』を『過疎の町』を元気な町に変えていく。それは高齢者から若者達まで共に『まちづくり』に参加している意味と価値を確認しながら、夢を語り合える『場』が創出されていくからである。

``まちなみ''それはその地で生きた人々の風景であり、これからも生き続ける人々の景像でもある。そしてコンパクトカメラが捕らえる``まちなみ''の一瞬の景像は、その地で今、生きる人々の証でもある。

株式会社ハヤマデザイン代表 羽山 弘一

 

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