川の匂いのする街
(From Kiryu Scape 96.)
島崎 憲司郎
世界的で引っ張りだこのフライ制作者
桐生市内を流れる渡良瀬川を人工的に再現すると、一体いくら必要だと思います?
ある試算Iこよると2兆円ですよ、2兆円。関西新空港の建設費は約1兆5千億円ですから、桐生市内を流れる約7キロの渡良瀬川の資産価値がどんなにすごいか、この数字からも分かってもらえると思います。
渡良瀬川は足尾銅山の鉱毒で一度死んだ川。それ以前、東村の水沼辺りは漁業で生計を立てていた人が数百人もいたんです。そのくらい渡良瀬川は豊かな白然に恵まれていた。現在の渡良瀬川は人工的に作り上げられた川です。
この桐生の渡良瀬川には、全国から年間50万人ものフライ・フィッシング愛好家がきます。
アユ釣りの人もいるので、その数はもっと多いわけです。なぜこんなに人気があるか?それはまさに町の中心を渡良瀬川が流れているから。都市計画という観点からは、川が町の中心を流れるのは非常に不利な要素。
町が川で二分されることになるから。橋もたくさん架けなけれぱいけない。でも、その欠点も少し見方を変えれぱ、利点にもなり得るんです。
その利点が渡良瀬川を全国的に有名な釣りのフイールドにしている理由なんでず。
まず、首都圏から車で1時間半という地の利の良さがあげられます。フライ愛好家に限っていえば、みんな飛行機や車を乗り継ぎ、資金と時間をかけ四国の山奥まで出かけていくわけです。それもフライ・フィッシングのできるフィールドが、日本ではまだ限られているからです。
渡良瀬川はその点、首都圏からも気軽に来られ、駐車場も困らない。川原に車が停められますからね。それと、町の中心部を流れているということは何かと便利なわけてす。トイレや食べ物の心配がなく、初心者には何よりも安全なフィールドですから。つまり、ふだんの生活の延長で釣りが楽しめる所が桐生の渡良瀬川なんです。
桐生に住んでいる人は案外気が付かないことですが、桐生市内を流れる渡良瀬川は全国の釣り愛好家から注目されている“熱いフィールド”なんですよ。桐生に住んでいる人がうらやましいんですね。
釣り愛好家でなくても、すぐ近くに水辺があるということは、メンタルヘルスにもいいんです。水の流れる音を聞くと気持ちが落ち着くことがよくあります。これは人間がもともと水辺に暮らしていたことが影響しているようです。
気分がイライラしていたり、仕事で行き詰まった時は、よく渡良瀬川にきてボーッとするんです。不思議と気持ちが落ち着いて、新しい発想がわいてきたりします。自分の身近な生活空間に川があることの意味を、もっともっとたくさんの人に知ってほしいですね。
渡良瀬川は釣り以外にも、おもしろいことができる場所だと思います。4、5年で消え去るアイドル歌手ではなくて、場末のクラプ歌手のように、地昧だけれども実カを秘めた場所ではないでしようか。
しまざきけんしろう
・シマザキデザィン代表
1949年、東京都生まれ。桐生高校卒業後、家業の中国料理店を継ぐかたわら、フライ・フィッシングに没頭。水生昆虫やフライタイニングの豊富な知識とフライ・フィッシングヘの深い思い入れから、斬新なアイデアを次々と発表。創作したフライは「シマザキ・フライ」として世界的に有名。近々、渡良瀬川や桐生川に生息する水生昆虫の生態をまとめた本を出版予定。