「織塾」はいま……
織塾はいま、目まぐるしいほど多くのことにトライし、模索しながらものづくりの新しい拠点としての地固めをしています。それは道具であり、技術であり、先人の残した布地であり、人材のネットワークなどです。
道具一つにしても、それはかつては人の分身であるほどでしたが、合理化により見失われてきました。武藤さんは、伝承されてきた道具によりつくられたものはそれ以降のものとは違うと考えているようです。だから、それらの手道具をただ収集し保管するだけでなく、ヒントを得る教科書としたり、使いこなしてみたりします。それが博物館でない織塾の役目と考えているのです。
また世界の民族衣裳、桐生をはじめとして全国各地で織られた膨大な布群も、多くの人に見てもらい、触ってもらい、先人の苦労や、楽しみを肌で感じとってもらいたいと考えています。
寺子屋織塾は、自分の心の何かを表現したくてそれを織物に求める人がいる限り、ものづくりの手助けを続けることでしょう。いまもアメリカの若い女性ヘレン・クインさんが三カ月の塾生として、かたことの英語とかたことの日本語のやりとりで、織物、いや日本の文化のエスプリを得ようとがんばっています。
武藤さんは、時には繊維工業試験場に塾生を連れてきて、最新の技術の紹介、指導なども行っています。
さらにインドネシアで工房を開いている人たちに染色の指導に行ったり、今は現地でも使われなくなった天然染料を持ち帰りその染色法を研究したり、まさに八面六ぴの活躍です。
試験場在職中に培った知識、技術、人との触れ合いをもとに自分の理想郷を建設しつつある先輩武藤さんは、われわれの誇りでもあります。読者の皆さまも機会があればぜひ織塾に立ち寄ってみませんか。そこに新しい平成寺子屋を見ることができるでしょう。