黒幣の天狗

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桐生から古く伝えられている民話を、
シリーズでご紹介いたします。
お楽しみに........


(くしょうぼう)
梅田町2丁目
小判の魅力にとりつかれた男の末路は。。

昔、入道ケ窪(桐生市梅田町2丁目)の少し、北方に、庄さんという変人が住みついていた。
庄さんは、たいへんな無精者で乞食でもこれまでと思われるような汚れた服装と貧しい食事。加えて近所とのおつきあいをも全く避けて日がな一日、家にこもりっきりという生活をしていた。

そんな庄さんには、夜の訪れが唯一最大の楽しみだった。昼間閉じる時間の長かったまぶたが、日暮れとともに生き生きとしてくるのを見ても、それが察せられた。

庄さんの夜の楽しみとは、床下にため込んだ小判との対面だった。
乞食同然の生活、近隣との交際拒否も実はせっかくの小判を手元から離すのがつらかったことから生まれた知恵だったのである。庄さんは小判の魅力に取りつかれた男だったのである。

床下には、びっくりするほど大量の小判がためこまれていた。爪に火をともすようにして手にした小判である。それだけにいとおしく毎日でも小判を眺めたい。
しかし、村人には気付かれたくない・・・
となると小判との対面は真夜中をおいて他にはなかった。庄さんの夜の楽しみは、こうして生まれたのだった。

「どれ、今夜も可愛い山吹色にお目にかかろうかい。それにしても、今夜はやけに冷えるわい。」
まだ初冬というのに、その夜はなんと白いものが舞っていた。
「とうとう雪か。寒いわけだ。」
両手に思いっきり息を吹きかけると、庄さんはいつものように床板を上げ、一升(1、8リットル)ますで小判を計りはじめた。
「一升、二升、三升・・・・」これは毎夜繰り返している行為だったが、庄さん
をなんとも言えない境地に引き入れてしまうのだった。雪の降るほどの寒気も、もうこの時の庄さんには感じられず、ローソクの灯に浮かび上がるその顔には鬼気迫る感じさえあった・・・・
「六升、七升、・・」庄さんが九升目を計り終えた時だった。
小判の触れあう音以外は静寂そのものだった夜のしじまを破って、突然表戸が激しくたたかれた。
「ドンドン、ドンドンドン」静けさを破ったその音は、異常なほどに高音のかたまりとなって家の中を走りぬけた。それだけに庄さんへのショックは大きなものだった。
「ウウッッ」
と小さくうめいた庄さんは、その場へヘナヘナとくずれ落ちてしまった。
手にしたますから小判がこぼれて、澄んだ金属音を床にはわせた。
「もし、家のお方。道に迷い雪に難渋している雲水じゃが、一夜の宿を御願いしたい。もし、家のお方」
雪の舞う軒下では、中の様子がわからないままに、老いた旅僧が表戸を叩き続けていた。
「様子がおかしい」と旅僧が気付いた時には、庄さんの息はすでに絶えていた。
ショックの大きさは想像以上だったのである。
でも、流石に小判九升をはかった一升ますだけは、しっかりと握られたままだった。床に倒れた庄さんの周りには、生前、庄さんがこよなく愛し続けた多量の小判が、ロウソクの灯りを妖しく映して静かに重なり合っていた。


この事件があって庄さんの家には「九升坊」の名がつけられた。山吹色の魅力にとりつかれ、豊富な財力を蓄えながら、およそ人間らしからぬ生活のまま一生を終えた庄さん。そして小判九升目を計り終えた時に、深夜の庄さん宅の表戸をたたいた坊さんの姿。「九升坊」の名には、遠い昔の雪の夜のできごとを物語って余りある響きを存分に含んでいるのである。

参考
九升坊(くしょうぼう)

前述の一升こう申を過ぎると、道は二俣道となる。直進は県道上藤生線で、右へ折れると梅田中学校正門前を通過して坂見へ抜ける旧道となる。
この旧道にはいって始めての左手の家が「九升坊」あとである。土地の人々も現在の家を「九升坊」と呼ぶが家そのものに伝説は残されているものの、家人と伝説の主とは何らのかかわりはない。

郷土史研究家 清水義男氏著「黒幣の天狗」より抜粋
ホームページ作成 斉藤茂子

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