黒幣の天狗

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桐生から古く伝えられている民話を、
シリーズでご紹介いたします。
お楽しみに........


梅田町3丁目
説法争いに負けた修験者の執念が大風を吹かす。。

「おうい、風の神様がやってきたぞぅ!」
「大風になるぞぅ!」
今まで仲良く遊んでいた大勢の子供たちが突然、口々にこう叫びあうと、まるでクモの子を散らすようにちりじりに走りだした。その様子を見た子守の老人も、
「また持宝院(じほういん)様がおいでになったかい。ひどい風にならなけりゃ良いが、どりゃ、わしも家へ戻らにゃのう。」とつぶやいて、孫の手をひきながらその場から足早に立ち去っていった。

むかし、川内村(現在の桐生市川内町)の持宝院(じほういん)と梅田村(現在の桐生市梅田町)の高沢院(こうたくいん)とが長い間、信者獲得で互いに激しい争いを続けていた。火花を散らすほどのすさまじい説法を重ねる互角の活動だったが、やがて持宝院の説法が高沢院のそれに勝ったのか、里人の心は次第に持宝院へ持宝院へと傾いていった。

そうなると持宝院は、これ見よがしに足しげく梅田村へ説法に来るようになり、反対に高沢院は川内村へ出向くどころか、地元の梅田村でさえ説法が出来なくなってしまったのである。
高沢院は自分の力不足を、時の流れと自身の心にに言い聞かせてあきらめはしたが、持宝院の姿を見るにつけ無念さ口惜しさが頭をもたげ、持宝院へのにくしみは日毎につのるばかりであった。そして、「何とかして持宝院めにひと泡ふかせなければ、胸の内がおさまらない」と思案をめぐらす毎日をすごした。

その思案の末、ようよう考えついたのが、己の法力をもって大風をおこし、持宝院を痛い目にあわせるということだった。
「持宝院め、わが大風の術で目にものをみせてやるぞ。あわよくば高沢(こうざわ)の大橋(梅田橋)から吹き落として、二度と梅田に来られんようにしてやりたいものよ」。。以来、高沢院はその策略を試みる機会をねらい続けた。

ところが、高沢院のこの策略に気付いたわけでもなかろうに、あれほど足しげく梅田入りしていた持宝院がバッタリと姿を見せなくなってしまったのである。運の悪いことは重なるというが、おりもおり、待宝院の梅田入りを心待ちにしていた高沢院がなんと、ふとした病がもとでうらみを残したまま、あっけなく冥府へ旅だってしまったのである。

村人たちは、高沢院にあわれの思いを寄せながらも、不安な毎日が消えたことを喜んだ。
ところが村人の不安は完全には消えなかった。高沢院の死後、奇妙な現象が見られるようになったからである。それは、持宝院が梅田村に姿を見せると、必ず大風が吹き荒れるようになったのだ。「高沢院様は、まだ成仏されずにおられる。
恐ろしい執念だ。」村人たちは、この現象をこう噂しあった。

大風が吹くという奇妙な現象は、初代持宝院の代だけでは終わらなかった。二代目、三代目持宝院の時代になっても、やはり大風が吹き荒れて村人はともどもに苦しめられたのだった。このことから、いつの間にか子供たちは、持宝院の姿を見かけると「風の神様がきぞぅー」「大風になるぞぅー」と叫んで家の中に逃げ込むようになったのである。

風の神様・・・桐生市梅田町三丁目周辺に残る伝承だが、今は里人でもこのことを知る人は少なくなっている。
持宝院が梅田に来ることがなくなり、大風の吹くことがなくなったせいかもしれない。


参考

高沢院(こうたくいん)

梅田町三丁目の二渡英弘さん宅付近に在ったと伝えられる。梅田町には、かつてこの高沢院のほかに南蔵院、北山院、法蓮寺など、多くの修験道場が存在し修験道の栄えた一時代があった。根本山(梅田町五丁目)や三峰山(同一丁目)鳴神山(同三丁目)といった山々の尾根を、山伏姿の修験者がカッポしているのが昭和初期まで見られたと土地の古老は話していた。

高沢の大橋(こうざわのおおはし)

現、梅田橋のことである。高沢川上約30メートルという高所に架けられている永久橋で、現在の橋は昭和9年の竣工である。

郷土史研究家 清水義男氏著「黒幣の天狗」より抜粋
ホームページ作成 斉藤茂子

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