黒幣の天狗

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桐生から古く伝えられている民話を、
シリーズでご紹介いたします。
お楽しみに........

金沢の大蛇伝
(梅田町一丁目)



山の主の大蛇をうち殺したタタリ。。。。

「なにかよい獲物はないかなぁ。まったくの手ぶらじゃぁ家へも、もどれやぁし ない。」

夕もやがただよい始めた頃というのに、こんなことをつぶやきながら猟師がひと り、金沢峠をのぼってきた。獲物のとれない口惜しさで歩が乱暴になっているら しく、ヒッソリと静まりかえる山中に小枝を蹴散らす音が、ことのほか大きく響 きわたった。

山中の日暮れは早い。猟師のあせる気持ちにはおかまいなく、辺りはグングンと 暗さを増していった。流石の猟師もあきらめきれないままに、下山の支度に とりかかった。と、何かの音がした・・・・そんな感じがして猟師は耳をそばだ てた。

じーっと息を殺して待つことしばし、突然頭上の枝が音を立てて揺れ始めた。 「今日最後のチャンス」と、猟師は胸をあどらせた。

すでに日暮れて獲物の姿は確認できなかったが、猟師は、手にした鉄砲を音のす るあたりに向けると力をこめて引き金をひいた。 「手応えあったぞ」こう猟師が感じとった瞬間、なにやら大きなものが重い鈍い 音を立てて落下した。「やったぁー」

一日のウップンばらしができた猟師は、真っ暗な山中で思わず小躍りした。 しかし、日のとっぷりと暮れた今となっては、獲物に近寄れそうもない。 「楽しみは明朝味わおう」とその日はひとまず引き上げることにした。

翌朝、猟師はまだ朝露に濡れる雑草をかきわけて、昨夜の場所へとって返した。 そこには尾の先を枝にかけたまま、地上に長々とのび、息絶えている大蛇の姿が あった。

猟師が楽しみにしていた獲物は、なんと大蛇だったのである。猟師は大蛇の死骸 をその場に残したまま、力なく下山していった。楽しみが大きかっただけに落胆 も大きかったのであろう。

そんなことがあって暫くたったある日、この猟師の家では奇妙な出来事が持ち上 がった。それは・・・・

家の中の片付けことがすんで、いろり端にに腰をおろしたこの家の老婆が、好き なお茶を呑もうと茶道具を引き寄せた。そして自在かぎにかかっった鉄びんの湯 をキュウスに注ごうとして飛び上がったのである。なんとキュウスの中に無数の 小蛇がうごめいていたからだった。

生来、蛇嫌いの老婆だったので、ショックも大きく、驚いたはずみで鉄びんをい ろりに落とし、家中をもうもうたる灰かぐらにしてしまった。 老婆の悲鳴に、外にいた猟師がびっくりして家に飛び込んで見ると、灰だらけに なった畳の上をたくさんの小蛇が、はいまわり、そばに放心した老婆の姿が見ら れたのである。

「これはあの時の大蛇のタタリかも・・」

あまりの光景に猟師はいつかの金沢峠での狩の様子を思いおこし、背筋を寒くし た。同時に、「金沢峠にゃ大蛇が住んでいる。あれはこの辺の山の主じゃ。どん なことがあっても決して殺しちゃぁなんねえぞ」と言う村の言い伝えも思いおこ した。

山の主を殺し、死骸を放置していたことを後悔した猟師は、この出来事を機に、 大蛇の霊の供養をねんごろに行い、庭の池のほとりには立派なほこらを建てて、 その霊をまつった。

そのためか、小蛇事件は二度ともちあがることはなく、再び家族のもとに安らぎ の日がもどってきてくれた。

あのときのほこらは、今も昔のままに池のほとりにまつられていて、金沢の地 (梅田町一丁目字金沢)を訪れる人々に、事件のあった往時をソッと語りかけて くれるのである。


参考

金沢峠(かねざわとうげ)

おりひめバス停「観音橋」で下車し、秩父分地、三峰山参道を西へ登りつめる と、梅田町と川内町とを結ぶ、かつての要路、金沢峠となる。この伝説は峠の梅 田町寄りに生まれたものである。

郷土史研究家 清水義男氏著「黒幣の天狗」より抜粋
写真撮影 小川広夫  ホームページ作成 斉藤茂子

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