桐生タイムス1998年(平成10年)6月9日(火曜日)掲載
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4t1069.jpg3t1069.jpg 日本の芸能史を語る上で欠くことのできない貴重な資料として、専門家にも「重文級」の折り紙がつけられた桐生のからくり人形。その復元と新しい人形芝居の創造に向けた活動が始まった。天満宮御開帳臨時大祭の付け祭りとして、各町内に飾られ演じられて大勢の人々をひきつけたからくり人形だが、昭和三十六年を最後に御開帳自体行われなくなってしまった。しかし桐生にはからくり付きの人形だけでなく背景の装置や小物、引き札、当時の写真や映像など関連資料が残っている。発掘と調査に当たってきた「からくり人形研究会」(山鹿英助会長)はまず本町四丁目の「曽我兄弟夜討」のレプリカを作製、からくりの仕掛けを解明して動きの再現を目指す。また彫刻家掛井五郎さん、テキスタイルプランナー新井淳一さんによる現代版の人形づくりも進めることになった。

 これまでに現存が確認されたからくり人形は五組。天満宮の「巌流島」「羽衣」、本町一丁目の「赤穂義士討入」、三丁目の「助六」、四丁目の「曽我兄弟夜討」で、関連資料として古くは明治二十七年、大正五年の引き札、水車動力で動いていたころの歯車などもある。昭和三十六年の御開帳に関しては八ミリ映画に記録されており、人形が実際にどんな動きをしたのかがわかる貴重な資料だ。
 今年度ハウジングアンドコミュニティ財団から百五十万円の助成を受けた研究会では、手始めとして「曽我兄弟」を借用して詳細な研究をし、レプリカをつくることになった。
 人形の再現はそう困難ではなさそうだが、問題は歯車や滑車が糸、ゴムを引き、針金や釘(くぎ)のスイッチによって手足、顔が動いて、兄弟の討ち入りドラマを見せる仕掛けの解明。まずは寝ている敵を兄弟が左右から切りつけるラストシ
ーンの三体を実証することになった。
 幸い桐生には当時図面を引いた経験者や木工、意匠、織物の技術者、群馬大学工学部の研究者、郷土玩(がん)具・風習研究家など豊富な人材がおり、それぞれの得意分野を生かした協力体制をとっていく。
 また桐生発の現代版人形芝居に向けても、創造作業が計画された。掛井五郎さんが人形をつくり、若き日々には人形芝居に熱中していた新井淳一さんが衣装を担当。宇野小四郎さん(日本人形センター前理事長)も加わって、夢をふくらませる。新井さんは「織物のまちフランスのリヨンでも、ギニヨールが盛ん。新しいものを取り入れて楽しんでいた桐生ならではの、奇想天外なワクワクす
るものをつくりたい」と話していた。

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 研究会では今後さらに関心のある人の参加を呼びかけるとともに、まだ埋もれているはずの資料の提供を呼びかけている。連絡先は山鹿会長(電22・3374)。
 なお桐生のからくり人形五組と関連資料が、高知県立歴史民俗資料館の企画展に出品されることになった。
 土佐の生んだからくり技術者・天文学者の細川半蔵にちなむ「からくり・夢と科学の世界」で、会期は七月十七日から九月二十三日まで。
 島霞谷旧蔵の半蔵の名著『機巧図彙』(寛政八年出版)も貸し出すことになり、資料はすべて二十九日に、美術品専用輸送車で搬出される。

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