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14.根本のマキ降り

(第14話・梅田町5丁目)
根本のマキ降り
副題・・冬の真夜中にマキが降る・恐ろしさに山を去った母娘



むかしのことでした。フミさんという女性が、縁あって根本神社(梅田町5丁
目・天正元年=1573年=創立)の神官の妻となりました。以来、深い山の中
で神官共々に「お山の神様」をお守りしてきました。

根本神社は、大山昨命(おおやまくいのみこと)、大山祇命(おおやまずみのみ
こと)という親子の山神をおまつりする神社で、江戸時代は、関東一円から東北
地方にまで及ぶ広い地域から、信者を得ていたお宮でした。幕末には、時の大老
で彦根藩主の井伊直弼(いいなおすけ)公の祈願所に定められた程の由緒ある神
社でした。

しかし、如何に由緒ある神社だからと言っても、深い山中に鎮座する神社ですか
ら、月のでない夜ともなりますと、まったくの闇(やみ)の世界、孤独の世界に
ならざるを得ませんでした。
それだけに、触れ合いの多かった人里から離れて、嫁入りしてきたフミさんにと
っては、お山での暮らしは寂しさを越えて時には恐ろしく感じることが度々あり
ました。フミさんは、その寂しさ、恐ろしさを可愛い盛りの一人娘のユキを愛す
ることでまぎらせ、また、ご主人の持つ法力に頼ることで、これまではなんとか
耐えてきました。

それが・・・ある冬の夜のことでした。夕刻から降り出した雪が降り止まず、思
いもよらない大雪となってしまいました。そのために、所要で山麓にくだった神
官が、とうとう神社に戻れなくなって、フミさん母娘は、初めて女二人だけで夜
を過ごすハメになってしまいました。

その夜は、降り続く雪のあかりで、ふだんよりは、あたりが明るく感じられはし
ました。でも、女だけの夜ともなると、それがかえって気味悪く感じられ、母娘
は、床に就いたものの、やけに目がさえてしまい、どうしても眠りに入ることが
できませんでした。そればかりか、裏山の樹々の枝から落ちる雪の音に飛び起き
てしまったり、時々吹く風で雨戸がきしむ音に身を縮ませるばかりでした。

そんな母娘の心細さをよそに、雪は休みなく降り続き、夜はシンシンと深まって
いきました。
「この分だと、だいぶ積もりそうね。お父さまは、明日お帰りになれるでしょう
かね」寂しさのあまり、フミさんがユキに、こう語りかけたときでした。ユキが
「母さま、あれはなぁに」とビックリしたような声で障子を指差しました。

見ると、障子に短くて太いマキのようなものが、次ぎから次ぎへと影を落として
降って行くではありませんか。恐ろしさが一挙に増した母娘は、互いにしっかり
と抱き合ったまま、まんじりともしないで一夜を明かしてしまいました。

長い長ァい夜でした。その長い夜が明けるのを待ちかね、空が白むと一緒に母娘
は、ヒモを解かれた小犬のように戸外へ飛びだしました。が、目の前の雪の庭を
見て「アツ」と驚きの声を挙げてしまいました。
夜中に障子に影を落として降っていたマキのようなものは、やはりマキでした。
そのマキが、まるで誰かが夜中に念入りに積んだかのように、雪の庭にキチンと
積み上げられてあったからでした。
フミさんは、身の毛がそばだつ思いで、その場に立ちすくんでしまいました。

フミさんは、もはやお山にいること自体がソラ恐ろしくなってしまいました。す
ぐさま部屋に戻って身の回りの品をまとめると、神官の帰りを待つことなく、ユ
キの手を引いて里におりてしまいました。そして、人を介して神官との離縁を果
たすと、もう二度とお山(神社)へは戻ってこようとはしませんでした。

冷たい雪の降る夜に、誰が何の目的で神社の庭にマキを降らせたのでしょうか。
そして、何時の間に、だれが雪の庭にマキを積み上げたのでしょうか。本当に不
思議な事づくめでした。それにしても、恐ろしさ、怖さでひと晩中一睡もできな
かった母娘が哀れで、まことに気の毒な出来事だったと言わざるを得ませんでし
た。

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○参考
(根本神社・ねもとじんじゃ)
根本神社は天正元年(1573年)三月十二日の大田金山・由良氏との合戦に敗
れた桐生氏の落人が根本山(標高1197メートル、群馬・栃木両県の分水嶺)
に籠り、自刃した奥方様や戦場の露と消えた胞輩たちの霊を弔おうと、根本講を
開いたことに始まる。
山そのものが神で、山の霊気に触れて信者自身が不思議な神通力を得ることによ
り、あらゆる苦難を排除することができるようになるという、捨身修行の庶民信
仰を本旨とする。
現神官、藤倉孝康氏は、同神社の十四代目神官である。

◆交通◆
第14話「根本の鐘」の交通欄を参照いただきたい。
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清水義男氏著「河童とアメ玉」より転載 
   原稿作成 写真撮影  小川広夫

 

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